エリス博士の7つのルール『幸せなカップルになるために』②

前稿に引き続き、アルバート・エリスの『幸せなカップルになるために―エリス博士の7つのルール』をテーマに、勝手気ままに論じていきたい。

個人的なことを言うならば、1度目の結婚が失敗したとき、本書に出会い、すぐさま、その論理療法の方法論に魅了された。
しかし、すぐに幸せな関係性を築けるようになったかというと、そうではなかった。
その後、アドラー心理学や陽明学などの智恵を借り、3年ほどかけて、ようやく身になってきたのかと振り返る程度である。

それらの経験を踏まえ、あくまでも1人の先達として、七つのルールについてコメントしている。
初めて本書の内容に触れる方にとって、なにかしらの助けになれば幸いである。

幸せなカップルになるために―エリス博士の7つのルール

二人の絆を深めるための七つのルール


いよいよ本題である。本書ではP.22から始まる。
(つまり、前稿に書いてきたことは、たかだか十数ページに書かれたもの!)
この「七つのルール」は、論理療法を人間関係の改善に応用したもの。
以下に、そのルールと、前提となる約束事項を見ていこう。

七つのルール
1:相手をありのままに受け入れる
2:相手を称賛し、感謝する気持ちを繰り返し伝える
3:真摯にコミュニケーションをとる
4:相手との立場や意見の違いを正直に認める
5:相手が目指している目標を応援する
6:相手にも間違いをおかす権利があることを認める
7:今かなえられない願望を目標としてとらえなおす

実践のための約束
・相手の行動に関わらず、1人で実践すること

ちょっと試してみるとすぐわかるだろうが、良いことが書いてあるが、実践するのは容易ではない。
しかし、これらは、あくまでもガイドラインであって、命令ではない。
「ねばならない化」させずに、ゆっくりとチャレンジしていこう。

ルール1:相手をありのままに受け入れる

夫婦生活によく見られる失敗の1つが「相手を変えようとする」こと。
パートナーは、部下でもなければ、奴隷でも、ペットでもない。
相手とは、本当の意味で異なる人間だということを理解する必要がある。

① 相手を変えようとしないこと
・命令や指示を押しつけない。
・望みどおりに支配しようとしない。
② 相手から影響されることを拒絶しないこと
・相手から影響されることを容認する
・相手からコントロールされることを拒否しない

つまりは、相手を対等な1人の人間として尊重することである。
アメリカの精神科医エリック・バーンの以下の言葉も押さえておきたい。

「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」

ルール2:相手を称賛し、感謝する気持ちを繰り返し伝える

アドラー心理学では、相手を勇気づける方法の1つとして「感謝を伝える」ことを挙げる。
他者との関係性を築くのに、感謝することは有効な手段の1つである。

① 相手への感謝を繰り返し伝える
・ちょっとしたことでも相手への感謝を伝える
・心より尊敬できる場所を見つけ、相手に伝える
② 批判ばかりにならない
・批判とは、①相手を正そうとすること、②他人を非難すること。
 いずれにしても、関係性を壊すには有効な手段となる。

感謝することは「褒める」や「お世辞」とは違う。
「褒める」は上から目線で評価することであり、
「お世辞」はそれこそ「現実」ではない。

ルール3:真摯にコミュニケーションをとる

自分のなかの「べき」「ねばならない」から解放されること。
怒りのコントロール論で良く見かける「一次感情 / 二次感情」にも近い。
現在の主張の根底にある「素直な気持ち」「正直な思い」をごまかさないことだ。

①自分の考えや感情に正直になる
・認めたくない感情や考え方も受け止めてみる
・相手が正しいときは素直に認めよう
② 考えや感情の表現をコントロールする
・正直に考えたことと、正直に伝えるべきことは違う。
・相手の気持ちを考えて、伝えるべきか選択する

ルール4:相手との立場や意見の違いを正直に認める

あくまでも対等な人間同士であり、同質・同類・同様の人間である必要はない。
お互いに自由に意見できるような関係性が求められる。

① 意見の相違を認める
・意見を交換し、相違や対立も容認する
・二人が満足できる結果を模索する
・感情的にならないよう言い方には気をつける
② 納得する
・納得してないのに同意するふりをしない
・わけがわからない主張も、相手の言い分を受け止めてみる
・妥協する覚悟をする

ルール5:相手が目指している目標を応援する

夫婦生活でよく見られるもう1つの失敗が「愛を求める」ことである。
相手は自分のために貢献すべきだと考えていないだろうか?
愛は与えられるものではない。与えるものだ。

① 相手の目標達成のため手助けする。
・相手の目標に賛成できなくても、できるだけ援助する
・愛を与える能力とは、相手の成長と幸福を願い、助けようとする気持ちである
② 自分を犠牲にはしない
・自分を偽ったり、自分の願望や考えを犠牲にする必要はない
・自分の本当の願望を、正直に相手に伝えること(真摯さ)
・人間関係を損なう恐れがある場合は、自分の意見は心のなかに秘めておく

ルール6:相手にも間違いをおかす権利があることを認める

人間は間違える存在である。
チャレンジすれば、間違えることもある。
失敗やミスは、後悔ではなく、反省するものでありたい。

① 相手の間違いを犯す権利を尊重する
・相手には間違いをおかす権利がある
・体験と失敗から学ぶ権利を奪わない
・自分の正しさを他者と比較しない。誇らない。
② 自分の間違えを認めること
・自分の間違いを認め、相手に伝えること
・自分の間違いから学ぶこと

ルール7:今かなえられない願望を目標としてとらえなおす

これまでの6つのルールも含め、結果を求めすぎると、それが呪縛となることがある。
満たされない願望の「ねばならない化」である。
呪縛化した願望は「好ましい選択肢の1つ」に置き換えるテクニックが有効である。

① 願望を目標に置き換える
・いますぐ手に入れる必要がないことを思い出す
・めざすべきゴールとして現実の中に再配置する

約束:相手の行動に関わらず、1人で実践すること

想像力のある人ならば、七つのルールの良さにすぐに気がつくことだろう。
「七つのルールが実現できたら、どんなに素晴らしい関係性が築けるだろう」
しかし、容易に失敗する原因が1つある。
それは、このルールを相手にも求めることだ。
このルールを守るのは、自分であって、相手ではない。
アドラー心理学でいう「課題の分離」である。

極端に言えば、このルールの存在をパートナーに伝える必要はない。
自分が良いと思ったことを、自分が行う。それだけでいい。
人間は「好意の返報性」という原理を持っているのだ。

・相手が何をしようが、自分自身の課題として取り組む
・自分1人でもルールに取り組む決意を持つ

まとめ


私自身の言葉で、7つのルールを翻訳すると、以下の行動原則にまとめられる。

ⅰ. パートナーは他者である。
  どんなに身近な存在でも他者である。
  意見の相違があるのも当然。
  他者を変えようとしないこと。
ⅱ. パートナーは人間である。
  共に歩む仲間である。そして人間である。
  感謝を伝え、喜んでもらえるよう働きかけよう。
  嘘をつかず真摯につきあおう。
  相手の考えを尊重し、批判や非難は極力避けよう。
ⅲ. 「ねばならない」に捉われない
  慌てない。
  損することを怖がらない。
  完璧でない自分・他者・状況を受け止めよう。

本書の内容は以上である。
他者との関係性の構築について、アドラー心理学と共通する点が多いことに改めて驚かされた。
「イラショナル・ビリーフ」を解決課題とする論理療法と、「劣等コンプレックス」を解決課題とするアドラー心理学では、本来的に異なるものではあるが、同じ「人間」をテーマにしたときの類似性は、興味深いと感じるものであった。

さらに理解を深めていきたいと思う。

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